不定期連載;マンガの迷い道(第二回)

Comic Batonで「三国志漫画の極北」とか書いてしまった例の作品。

蒼天航路(34) (モーニングKC (1456))

蒼天航路(34) (モーニングKC (1456))


気付いたら10年近く読んでいるが(モーニング94年47号〜連載中)、絶えず新しい魅力を発してくれて読み飽きない。

ワタシのこれまでの三国志遍歴をたどると
   中学時代;横山光輝「三国志」潮出版社
   高校時代;羅漢中三国志演義」(平凡社
   大学時代;陳舜臣「秘本三国志」(文春文庫)
        陳寿三国志」(筑摩書店)

流れとしては物語の上流へと進んでおり、それに従ってノンフィクション(史実)の比重も段階的に高まっている(最後は正史=オフィシャルなドキュメントだが)。大学の研究室の机の上に三国志を並べて置いてた記憶が今となっては気恥ずかしいものだが。
フィクションの要素が減ってくると、必然的に曹操のキャラクターの強さが浮き上がってくる。勧善懲悪物語の“悪役”の枠組みを外すと、そこに残るのは合理主義的な為政者と激情を抱えた詩人の矛盾する二つの顔。西洋世界でこれに匹敵するキャラとしてはユリウス・カエサルぐらいか、日本では信長でもまだ足りない。
さてこういう遍歴を経て三国志についてはチトうるさいぞ、と言える程度の基礎知識を備えた段階で読んだのが本作であったが、他のマンガとは比べものにならない史実への言及、その枠組み内でなおハジけまくるキャラクターの無鉄砲さ(モロ出し孔明とか)など褒め処はいくらもあるのだが。史実への忠実さと史実からの逸脱をあれほど極端に抱えた作風は奇跡と言っても過言ではない。先に記した遍歴を経ているワタシはこの醍醐味を隅々まで楽しめるので幸せである。そして何より
“漢の貌”が群を抜いて格好いいのだ。
出てきて数ページで死ぬチョイ役ですら。

ワタシの一番好きな逸脱は歴史に名高い赤壁の戦い。いつの間にやら曹操孔明のキャラ対決になってしまい、孔明曹操に名前を覚えてもらって終わるという衝撃の展開を迎えた時にはいい意味で死ぬかと思った。

そんな曹操もやがて死を迎える。連載では関羽の死を目前にしているが、同年に曹操も死を迎えることになっているので、さぞ愉快な死に様を見せてくれるだろうと心待ちにしている。
英雄の生き様はいつも僕たちを酔わせてくれる。