バレンタインを後にして

うちの部署では朝礼時に1分間スピーチと称して技術/業界動向などをネタに一席ぶつ習慣がある。
今朝は分析担当の女の子が、バレンタインデーにちなんで美味しいチョコレートを作るための温度処理手順について興味深い説明をしてくれた。


チョコレートの成分のうち30%をカカオバターが占め、カカオバターの結晶内に砂糖・カカオ増す・粉乳などの微粒子が分散している。
さて、カカオバターなどの食用油脂は同じ化学構造でも異なる数種の結晶構造を持ち、各々が異なった融点を持つ。
カカオバターの結晶構造は安定(融点が高く、分子配列が緻密)なものからⅠ〜Ⅵ型の六種類に分類されている(これとは別にα、β、β’、γの4分類もあるが)


室温ではパリッと割れ、かつ滑らかな口溶けを持たせるには二番目に安定なⅤ型結晶に均一化するのがベストであるが、湯煎により溶かしたチョコレートを何のひねりもなく冷やすだけでは各結晶型が混在した状態で固化するので外観も舌触りもいただけない。
そこで以下に示すようなテンパリング(温度調整)過程がチョコ作りのレシピとして与えられる。


まず40〜50℃でチョコを溶かす。あまり温度を上げると油脂分が変質するので注意。
次に、27〜28℃前後まで冷却、これによりⅢ〜Ⅴ型の結晶が溶融チョコレート内に生じる。
そして、30℃程度に加熱して撹拌しながら保持する。
これにより低融点のⅢ、Ⅳ型結晶が消失、溶けずに残ったⅤ型結晶が種結晶となってその後の冷却過程で成長し、すべての結晶がⅤ型になるわけである。
またⅤ型結晶は構造が緻密なため冷却時の体積収縮率が大きく、成形用の型枠から抜きやすいというメリットもある。
(長期間おくと最も安定なⅥ型へ転移し、結晶が大きいため舌触りがざらつき、高融点により口溶けも悪くなる。作った翌日くらいなら問題ないとは思うが。工業的には乳化剤の添加により転移速度を遅延させている。)


さて、ここまで長々とした内容をいちいち調べたのは、単にこうした熱処理のプロセスに興味があった(何せ工学部卒)だけで、決して来年の冬に自分で作ろうと思ったからではないことを強く主張したい。
(ましてや人にあげようなんて事は)