静かなる闘魂

『ACACIA』シネ・リーブル神戸にて。
二度とありえない「主演:アントニオ猪木」の響きに魅せられて観には行ったものの。
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猪木を強引にねじ込んだだけにシナリオのそこかしこに無理が見えるが、「猪木抜きでも納得いく脚本になったか?」と問われてもやはり駄目っぽかったような気がする。
むしろ『猪木を観せる』ことに徹すればそれはそれで納得いったかもしれないのだが、その点においても不徹底感が残った。
リングの外では微塵も無い猪木の演技力が色々と制約をかけたのだろうけど、表面的には『猪木vs辻仁成』という異種格闘技戦がアリ戦と同様にグダグダっぽく終わってしまった。


とは言え、多くの皺を顔に刻み柔らかい陽光の中を静かに佇む猪木の姿には何とも言えぬ感傷を覚えた。
熱狂の裏側で刻み続けた孤独の影。
シンプルな猪木観を持つ人には或いは観るに耐えない情景かもしれないが、これもまた猪木なのだ。


完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)

完本 1976年のアントニオ猪木 (文春文庫)



それはそれとして、猪木と比べてしまうせいか他のキャストの演技は実に素敵だった。
特に北村一樹演じるケースワーカー。自分の本音を腹話術の人形に託すキャラはいいんだけど、家族の団欒の中で人形に喋らせたり、人形と自問自答したりする様は“サイコいっこく堂”にしか見えなくて酷く面白かった。